躊躇いのキス
「雅人」
「呼んでるし」
「だって、呼んでいいって言ったじゃん」
「言ってないし」
「いいの。もう」
自分でそこまで言ったんだから、もう雅兄なんて呼んでやらない。
まだ少し照れるけど
雅人と呼ぶのは、あたしなりの精一杯の強がりだ。
「で?何?」
「……帰っちゃう、の……?」
どうしても、さっきの言葉が忘れられない。
あたしを抱きたいと言ってくれた言葉。
ドキドキして……
思い出すだけで胸がきゅんとなって……
「何、一丁前に誘ってんだよ」
だけど雅兄は、軽く笑うだけで……
「だ、だって……」
「……」
恥ずかしくて、目を伏せるあたしに
雅兄は目の前まで近づいてくる。
そしてあたしの前髪をかき分けると……
「…っ」
「おやすみ」
おでこに軽くキスをして、その指先を離した。