躊躇いのキス
 
「お疲れー」
「お疲れ様ですー」


お酒の入ったグラスを、チンと合わせて乾杯のあいさつ。

理恵子先輩は生ビールを。
あたしはハイボールで乾杯をした。


「あーおいしー!」
「最初から飛ばしてますねー」
「だってさー、飲まなくちゃやってらんなくない?
 最近の店長、ピリピリしすぎ」
「あはは……」


理恵子先輩の言っていることはごもっともで、
どうしても売れ行きの悪い今は、お店をかかえる店長にとっては手痛い時期であって……

ちょっとでも私語やサボるようなことがあれば、
口うるさく注意される。

今日は本社へ顔を出しに行くとかで、午後はいなかったけど……。


「どうせ、バレンタインが終わればホワイトデー前で売れるんだから、そんなピリピリしなくたっていいじゃんねー」
「ですよねー」


なんて、実際店を抱えていないあたしたちは、お気楽思考だった。
 
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