躊躇いのキス
 
あたしのお店で、指輪なんてメンズ物は扱っていない。
しいて言えば、ペアリングの類くらい。

だから見繕うということは、プレゼントとしての指輪ということで……。



きっと……
昨日の女の人にあげるんだ……。



「何凹んでんの?」

「……べつに」



急にだんまりとしたあたしに
雅兄はわざとなのか、面白そうに顔を覗き込んできた。

そんなニヤつく雅兄に、苛立ちさえ感じてしまう。


「じゃあ、仕事に行きますか」


雅兄はあたしのふてくされ顔なんか気にせず、スッと立ち上がってしまう。

一人ドアに向かって
何事もなかったかのように部屋を出て行こうとしていて……




「ま……雅人っ!!」




あたしは、雅兄の名前を呼んだ。
 
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