躊躇いのキス
2章 子ども扱い
 
「こちらはいかがでしょうか」


丁寧に仕上げられた化粧に、髪の毛を一本に束ね、
目の前でいちゃいちゃと悩んでいるカップルに、極上のスマイルで指輪を提示する。


「きゃー!これも可愛いー!」
「そうかー?俺には違いがよくわかん」


こういった、温度差が出るカップルはよく見慣れたもので、
いかに男をその気にさせるかが、店員の勝負の見せどころである。


「こちらは先ほどのリングよりも、細く作られておりまして、
 彼女のような小柄の指先に綺麗に映えるよう作られております。

 一度両方の指輪を両手につけてみてくださいませ」


「あ、はい」


きゅっと白い手袋を整え、彼女のサイズである7号の指輪を差し出す。

そして最初に見せた指輪を右手に。
新しく出した指輪を左手にした。


「どうです?
 左のほうがすらっと綺麗に見えませんか?」

「あ、確かに……」


両手を並べてかざしてみると、素人の目から見ても一目瞭然で
男側も納得していた。
 
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