躊躇いのキス
 
「まーさ……
 そんな男は……

 忘れちまえ!!」


「え……」


散々深妙な顔つきをして話を聞いていたのに、
次に落とした言葉はまさかのそれ。


「いや、忘れられたら……楽なんですけど……」


忘れられなかったから、
雄介と付き合いながらも自分でも気づかない隙間に雅兄が入り込んでいたんだし……。


「だってさ。
 そんなこと言ったって、年はとっていくんだよ!?
 いつまでも若いなんて思うな!!」

「あ、はい……」

「忘れようと努力しなければ、一生忘れない!

 いつか努力してるって思わなくなったとき……
 それが忘れられたときだからさ」


理恵子先輩の言葉は、時々無性に深い意味をもつ。


努力してるって思わなくなるときかぁ……。

本当にそんな日って、くるのかな……。
 
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