躊躇いのキス
「な……んで……」
「何俺から逃げようとしてんの?」
唇を離して、
まだ数センチの距離を保ったまま、射抜くようにあたしを見据える雅兄。
ドキドキと心臓が高鳴って
呼吸さえも思うようにできなくなる。
「言っとくけど、
そう簡単には逃がさないから」
「……」
まるで我が物といった言葉。
雅兄は知っているから……。
あたしがどれほど、雅兄のことが好きなのかということを……。
「な……にそれ……。
正式な彼女にもさせてくれない、くせに……」
それでもやっぱり、素直に「うん」なんて言いたくない。
あたしにだって言いたいことはたくさんある。
文句だって、罵りたいことだって……。
「うん。
もう彼女になんかさせてやんない」
雅兄から吐き出される言葉は、
やっぱりあたしが欲しい言葉なんかじゃない。
「……っ……
知らないっ!!!」
「侑那っ!!」
あたしは無理やり雅兄の腕を振り切ると、
雅兄のもとから走り去った。