躊躇いのキス
 
「良ちゃん!
 あたしこっちがいい!」

「そうだな。
 じゃあ、これをお願いします」

「かしこまりました。
 ありがとうございます」


決して微笑みすぎない微笑をうかべ、お客様に一礼をする。

だけど心の中ではガッツポーズだ。


決して安価ではないジュエリーは
イベント前ではないこの時期に売りさばくのは結構難しいことで……。

クリスマスが終わったばかりのこの時期は、ホワイトデーまでいかに売り上げを保っていくかが勝負だった。



「サイズ等のご変更は、こちらの保証書をお持ちいただくと、1年間無料でいたしますので……」
「はいっ」


「ありがとうございました」


嬉しそうに微笑む彼女に、照れくさそうにしている彼氏。


いいなぁ……。

なんて心の中で羨みながら
そのカップルが見えなくなるまで頭を下げ続けると、顔を上げる寸前にため息をついた。
 
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