躊躇いのキス
ひらひらと舞う雪は、降り始めたばかりなのかまだどこも積もってはなくて、
傘もいらないくらいのわずかな雪。
それなら本降りになる前にさっさと合コンが行われる店へ行ってしまおう。
そう思って、歩を速めたときだった。
「………おいっ」
「え……?」
ただ前を見て足早で歩いていたあたしを、誰かが引き留めた。
「何帰ろうとしてんだよ」
「……ま、雅兄……」
あたしを呼び止めたのは、雅兄だった。
「なん、で……」
「なんでってお前なあ……。
約束忘れたわけ?」
「約束?
…………あ…」
(お勧めの指輪。
見繕っといて)
ようやく、忘れていた用事を思い出した。
今日は雅兄が店に来ると約束した日だ。