躊躇いのキス
 
「お先失礼しますー」
「おつかれ」


21時過ぎ。
無事に今日も閉店になり、店長に一言挨拶をして店内を出た。


ヒールで立ち続けるのも慣れてはきたけど
それでもやっぱりこれからのことを考えると辛い。


今までは、家まで電車で15分くらいだった。

だけど実家は、ここから1時間くらいかかって……。


「家、遠すぎ……」


なんて、意味のない愚痴を漏らした。





最寄駅について、家までの道のりを歩く。

駅から家までも遠すぎだよ、と心の中でぶつぶつ文句を言っていると、
目の前を見知った影が歩いてくるのが分かった。



あ……
雅兄だ……。



そこには、まだあたしの存在には気づいていない雅兄がこっちに向かってきていた。
 
< 17 / 203 >

この作品をシェア

pagetop