躊躇いのキス


「……雪、降ってきてるし」



パラパラと舞う白い雪。

あたしの心を読んでいるかのようだ。


「なんて悠長なことしてらんない」


雪が積もってしまえば、スーツケースを引きずるのが困難になってしまう。

あたしは足早で、駅から徒歩15分の道を歩いて帰った。




「………ただい、ま…」

「おかえり。出戻り娘」

「すみません……」


返ってきてそうそう迎え入れてくれたのは
やっぱり温かい言葉なんかじゃない。

これは、すぐに一人暮らしとして家を出るしかないかな……

と少し泣きそうになったけど、



「寒いでしょ。
 お風呂入れておいたから、入ってきなさい」


「……うん」



にこりと微笑んでくれたお母さんに、泣きそうになった。
 
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