躊躇いのキス
4章 切ない自覚
「ありがとうございました」
店内を一周して、何も買わずに出たお客様に一礼。
今回もダメだったか……。
と、心の中でため息を吐いた。
やっぱりこの時期は全然売れない。
来月になれば、バレンタインも過ぎてホワイトデーになるので、売れ行きはぐんと変わるけど……。
でも売れもしないのに
にこにこと笑顔を振りまくのは、やっぱり疲れるものだ。
閉店時間が近づくころ、お客さんも店内にはいなくなっていて、暇を持て余しながら店内のショーケースの中を軽く整頓。
店長はやっぱり売り上げのことを気にしているのか、資料を片手に計算をしているようだ。
このまま今日は、お客さんが入ることなく閉店かな。
そう思っていると、自動ドアが開いて
ゆるんでいた顔を営業モードに切り替えた。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいました」
「!!」
くるりと振り返った先には
人の顔を見て面白そうに含み笑いをしている雅兄がいた……。