躊躇いのキス
5章 バカ
「侑那ー?」
今日は休日。
平日休みのあたしは、友達とも休みが合うわけでもないので
一人予定もなくゴロゴロとしていた。
そんな休みも終わろうとしていて
夕方過ぎ、いい加減漫画に飽きてうとうとしかけたとき、お母さんに呼ばれた。
「何?」
「あんた、暇でしょ?
ちょっとこの服、雅人くんに返してきてよ」
「はあ?」
そう言って渡してきたのは、雅兄のものと思われるグレーのパーカー。
というか、なぜに家にそんなものがあるんだ……。
「この前来た時に、暑いって言って脱いでたみたいなんだけどさ。
そのまま忘れて置いて行っちゃったみたいなのよね。
洗濯はしてあるから、そのまま返しに行ってきて。
多分、この時間なら雅人くん、帰ってきてるでしょ」
「いやいやいや。お母さんが行ってきてよ」
「あのねぇ。
お母さんは夕飯の支度をしてるの。
あんた、今日一日何してたって言うのよ」
「……」
それを言われたら、何も言い返せない。
ましてや、つい最近出戻ったばかりの娘……。
「……分かったよ」
仕方なく、そのパーカーを受け取ると
憂欝な気分で玄関へと向かった。