躊躇いのキス
6章 消えていなかった想い
「ありがとうございました」
お買い上げをしてくれたお客様に向かって、丁寧に下げられた頭。
もうすぐ今日の営業時間も終わる。
心の中でため息を吐いて、ゆっくりと顔を上げた。
だけどその途端、店内に自動ドアが再び開き……
「いらっしゃい……っ」
「ませ」という言葉は続けられなかった。
「……久しぶり」
「……雄介…」
そこにいたのは、数週間前に別れを告げられた雄介がいた。
「もうすぐ上がりだったよな。
このあと、ちょっと話いい?」
「……うん…」
「じゃあ、近くのカフェで待ってるから。
終わったら連絡して」
それだけ言うと、雄介は再び店の外へ出て行ってしまった。
「無理!」って心の中で叫んだのに、それを言い返すことすらできなくて
せっかくもうすぐ仕事が終わる!とテンションが上がっていたはずなのに、そんな気持ちがいっきになくなってしまった。
話って今さらなんだろう……。