躊躇いのキス
「最低ってのはなくない?」
「…っ」
背を向けていると、それを包み込むように後ろから抱き寄せてきた雅兄。
ビクッと肩を震わせ、またそれに騙されそうになったけど、
必死に耐えてその腕を解こうとした。
「やめてよっ……。
そんなに人のことからかって楽しいの!?」
「べつにからかってるつもりなんかねぇよ」
「じゃあなんでっ……」
なんでこんなに意地悪されないといけないわけ?
あたしがいったい何を……。
「だから今言った言葉は全部本当だってこと」
「……」
再び目をぱちくりさせて、抵抗をゆるめる。
本当だということは、
彼女と別れたということも……
あたしの顔が思い浮かぶということも……?
「けど」
頭に顎を乗せ、少しだけ困った声で言葉を続ける雅兄。
「正直、まだ分かんないから。
侑那への気持ち」
そこに、からかいが含まれる声色なんかなかった。