AfterStory~彼女と彼の話~
 2月13日、土曜日。

 美空へ渡すバレンタインギフトをバックに入れ、電車で美空が住む街の最寄り駅に向かう。

 残業でなかなか会えない日が続いていたし、どちらの部屋で過ごすのも減っていたから、美空からの提案は嬉しいな。

 数十分ほど電車に揺られ、最寄り駅に着くと、改札口で美空が待っていた。

「美空、お待たせ。寒かったでしょ?」
「そんなに待っていないですし、寒くないですよ?」

 2月と言ってもまだ寒いし、美空の頬は林檎のように赤くなっているから、寒いのを我慢しているな。

「我慢をしなくていいのに」
「……はい」

 腕を伸ばし、毛糸の手袋で美空の両頬を包んで見上げると、美空は照れてはにかんだ。

 俺たちは身長差が5センチもあって、美空が高くて俺が低いが、今は身長なんて関係ないと言えるくらい、愛しい想いがある。

「じゃあ、美空の部屋に行こうか」
「はい」

 手を繋いでアパートに向かい、美空が玄関を開ける。

「どうぞ」
「お邪魔します」

 玄関に入った瞬間、チョコの香りが鼻孔をくすぐった。

「チョコの香りがするね」
「さっきまで友チョコを作っていたんです」
「今のバレンタインって、そういうのも流行りなの?」
「そうなんですよ。"これからも仲良くいようね"と込めて、贈るんです」

 『Clover』の編集長になってからは女性の流行りについて原稿で読んだことがあるけれど、バレンタインにも流行りがあるんだな。

「勿論、幸雄さんのもあるので心配しないでください。今から食事の準備をしますので、あちらで待って下さいね」
「分かった」

 美空のフォローに笑い、ベッドの側に荷物を置いて、夕食が出来上がるのを待つことにした。
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