AfterStory~彼女と彼の話~
├雨が降って緊急避難(九条麻衣×佐々原海斗)
(九条麻衣×佐々原海斗)
side麻衣
スマホの画面にメールのマークが浮かんでいたので、指でタップして本文を開いた。
『仕事が終わった。待ち合わせの時間には間に合う。楽しみにしてる 海斗』
海斗さんらしい短くて、とてもシンプルな文面に苦笑いしながら返信ボタンを押して、人差し指で返信文を作る。
『私もとても楽しみです。終わったらすぐに駅に向かいます。 麻衣』
絵文字をつけたいところだけど、海斗さんと同じようにシンプルな文面で返信した。
電車に乗りながらさっきのメールの内容を思い出して、にやけてしまう頬を必死に戻そうと力をいれるけれど、どうしてもにやけてしまう。
今日はなにがなんでも定時で帰ることを目標に仕事をすすめなくちゃと気合をいれて、四つ葉出版社へ出勤した。
編集部のフロアに入ると人は少なくて、きっと取材だったりで席を外しているのが多いかもしれない。
私も取材が1つあるので、準備をしてから向かわないと。
自分の席で取材に使う備品を確認していると、編集部のドアが開いて姫川編集長が入ってきたので席を立った。
「おはようございます」
「うっす。取材の準備は出来てるか?」
「出来ていますので、いつでも出れます」
「よし、青木印刷所への提出を間に合うように行くぞ」
「はい」
以前取材したお店から雑誌掲載のNGを言い渡され、急きょ別のお店の取材をすることになり、四つ葉出版社の雑誌の印刷を一手に手掛ける青木印刷所にも事情を説明し、この後の取材を終えたらそのまま原稿を提出するという強行スケジュールとなったのだ。
取材先のお店に行く道中、空の色は灰色から段々と黒くなっているように見える。
「雨が降りそうだな」
「天気予報のニュースでも、雨脚が強くなると仰ってましたよ」
「マジかよ。ふらねぇ内にさっさと終わらせるぞ」
普段から苛々のオーラを出している姫川編集長だけど、この天気によってさらにそのオーラが倍増しているから、この天気に対して恨んでしまいそうになる。
どうか雨が降らずに晴れて、姫川編集長の機嫌も晴れますようにと願うばかりだった。