AfterStory~彼女と彼の話~
【水瀬幸雄side】

 四つ葉出版社の冬季休暇は、カレンダーの暦通りで短い期間だ。

 その間の印刷会社は機械が稼働しないので、雑誌を発行するための進行スケジュールが過密になる。

 締め切りに間に合わせようとするのだが、モデルと連絡が着かないだの、写真のデータが届かないだので、慌ただしいことが続いた。

 美空とゆっくり出掛けられるのは休みに入ってからだなと考えているのを見透かされているのか、美空は出掛けることに遠慮がちになっていて、ランチを食べにいくことの提案ばかりする。

 まだ美空とK駅周辺のカレー屋にも行けてないので、何とかして丸一日の休みを取りたい。

「水瀬編集長、今度の日曜日に取引先と会うことで相談があります」

 やっぱり、出掛けるのは冬季休暇かな…、心の中で自分の忙しさに落胆し、気を取り直して部下の話を聞く。

 深夜にマンションに帰宅するのも日常で、バックをベッドに置いて、水槽の中を泳ぐ熱帯魚に餌を与えた。

 熱帯魚は餌に群がってぱくぱくと食べ、食べ終われば、また水槽の中を仲良く泳いでいて、四六時中一緒にいられるのが羨ましいな。

「俺も美空と出掛けたいよ」

 ポツリと呟いても部屋に一人きりだし、熱帯魚は口なんてきけやしないから嘆いてもしょうがないよな。

 深いため息をついて、この日は寝るのだった。
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