AfterStory~彼女と彼の話~
 年末進行の終わりが見えてきて、春の時期に発行する『Clover』に載せる特集を決めるため、部下から提出された書類の束に目を通す。

 春を意識したコーディネートはパステルカラーが豊富で、男性目線から観ても彼女に着てもらえたらいいなと思える。

「こっちはどんな企画だろう」

 企画書を捲ると恋愛特集のようで、新生活を迎えるにあたり恋人と同棲をするのかしないのか、同棲したらどんな生活をおくっているのかの内容だ。

 同棲か…、今のままのキャリアを続ければ美空に会える時間が圧倒的に少ないし、一人であのマンションに帰っても熱帯魚しかいない。

 もしも美空と同棲したら、帰るのがとても楽しみになるのだろうな。

 そういえば美空の手料理を食べたことがないし、どんな風に作るんだろうかと想像しながら企画書を読み続けると、あるカップルの意見に目がとまる。

『本当は休みに彼と過ごしたいって言いたいけど、彼の忙しさを知っているから素直に言えない公務員女性29歳』
『相手が我慢しているなんて気付かなくて申し訳なくて、ちゃんと言って欲しい公務員男性29歳』

 読んでいると何だか自分の美空との関係に近くて、ギクッとする。

 ちゃんと言って欲しいか…美空と付き合えることが出来たのは嬉しいけど、それだけで満足しちゃいけないし、恋人同士だからもっと美空にも俺に言って欲しいのは我が儘だろうか。

「恋愛って難しいな」

 近くに座る部下たちから一斉に顔を向けられた。

「水瀬編集長、どうしました?」
「恋愛は一筋縄にはいかないんですよ?」
「俺なんて喧嘩をしたら、仲直りするの大変でしたよ」

 次から次へと恋愛話が咲き誇り、まるで学生時代みたいな雰囲気になる。

「ほら、早く記事を書かないと冬季休暇にも出勤することになるよ?」
「はーい」

 部下たちに記事を書くように促し、自分もパソコンを使って仕事をし始めた。


 冬季休暇に入り、美空とK駅周辺のカレー屋に行くことが出来たのは楽しかった。

 美空が嫌煙してたヒールの高いブーツをプレゼントした時、美空はとても喜んでくれて俺も嬉しかったな。

 まだ休みもあるので、何処かに行けないかなと美空にメールで相談するも『お休みが少ないので、お正月は家族で過ごしましょう』と返事が来た。

 確かに家族と正月を過ごすのもいいけど、美空と過ごしたいんだけどな。

 ふと四つ葉出版社で読んだ記事を思い出して、自分からももう少しアクションしなくちゃと思っているとスマホが揺れたので指で画面を弄ると、実家からだ。

 電話に出てみれば餅があるから取りに来いとのことで、これなら美空と一緒に会うきっかけになるかもしれない。

 正月になっていそいそと実家に出掛けて親から餅を受け取ると、妹のYUKIが俺の所に来た。

「お兄ちゃん、そのお餅は食べきれるの?」
「彼女と食べるから平気」
「いいなー。今度、彼女を連れてきてよ。沢山お話をしたい」
「はいはい」

 美空に会いたがっているYUKIをあしらい、自分のマンションに帰って美空に電話をする。

 ちょっと眠たそうにしていた美空に笑ってしまいながらも、餅を理由に会いたいと正直な気持ちを伝えたら、美空も嬉しそうに会いたいと言ってくれた。

 待ち合わせの日はファッション誌の編集長だからという理由じゃなく、恋人と会うからという理由が一番で服装を何度もシミュレーションをして選んで、美空に会う。

 美空の地元の道を歩いている時、前に来た時は元彼とのトラブルで美空のアパートへまっすぐ行ったから街の風景を見る余裕が無かったので、改めてみると商店街もあってアットホームな雰囲気な街だなと思う。

「いい風景だな」

 スーパーで買い物をしている時は、一緒に住んだらこうして買いにこれたらいいなと思ったし、美空の部屋に入り、料理をしている姿を見てると、一緒に住みたいなと思うようになった。

 美空が作ってくれた料理は美味しくて、あっという間に平らげてしまった。

 俺が黙々と食べているのを美空は嬉しそうに微笑み、今はキッチンで食器を洗っている。

 この後は帰るか、それとも…と頭の中であれこれ考え、俺の休みを優先的に考えてくれるのは嬉しいけど、我慢させすぎてしまい、いつか美空に限界が訪れて壊れてしまうんじゃないか。

 そんなことはさせたくない、やっとお互いの理想の恋愛の人に出会えたんだから、もっと気持ちを通わせて一緒にいたいと、伝えたい。

 よし、言うか。

 俺は立ち上がって、食器を洗っている美空に近づき、食器を洗う美空を抱き締め、残りの休みは2人きりで過ごしたのだった。




【水瀬幸雄side終わり】
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