AfterStory~彼女と彼の話~
「沙紀!!」

 最後に南山の声が聞こえるなんて、ラッキーかも―…、あれ?痛くない?

 確か光る物を振りかざされた筈なのに、体に痛みが全然ないし、一体どうしたの?瞼をそーっと開けると、目の前に南山の姿があった。

 南山はひったくり犯の右手を捻りあげ、スーツのポケットから手錠を取り出して、ひったくり犯の両手を後ろに回させてから手錠を掛ける。

「離せよ!」
「銃刀法違反の現行犯で逮捕する」
「……」

 私はポカンと口を開けたままでいると、後ろからパトカーがやってきて近くに停まり、中から署員の人たちが降りてきた。

「南山、そいつか」
「はい」

 南山は署員の人にひったくり犯を引き渡すと、私の前にしゃがむ。

「お前、何してんだよ!」

 南山が眉間に皺を深く寄せながら、私を叱責する。

「ご免なさい…」
「ったく、気をつけて帰れよって言ったばかりだろ」
「うん」
「立てるか?」

 南山が手を差し出したので私は恐る恐る手を差し出して立ち上がり、地面に叩きつけられた時に服についた埃を払った。

 ひったくり犯はヘルメットを脱がされ、パトカーに向かう。

「東雲、他に怪我はしてないか?」
「左手を痛めちゃった」
「はぁ?」
「ひったくり犯を逃がしたくなくて腕を掴んだら、振りほどかれた拍子に…」
「そっか…」

 南山はポツリと呟くと、パトカーに乗ろうとしているひったくり犯の元にすたすたと歩いていき、ひったくり犯の肩を叩くとひったくり犯が振り向いたと同時に、南山は拳でひったくり犯の頬を思いっきり殴った。

 まずいよ南山!犯人を検挙した後に手を挙げることは、職務違反になる。

「南山、やめろって」

 署員の人たちが南山の突然の態度に驚きながらも、南山を抑えようと体を羽交い締めにする。

「とりあえず戻るから、東雲、お前にも事情聴取するから来い」
「はい…」

 私は署員に言われ別のパトカーに乗り、先に走る車にはひったくり犯と南山が乗り込んだ。

 どうしよう、南山が犯人を殴ったことを上司の耳に入ったら、警察官として真剣に取り組んでいる南山の経歴に傷がつくし、下手したら降格や色んな処分が下されるに違いない。

 内心ひやひやしながらも事情聴取を受けて、先に警察署を出て帰宅した。
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