AfterStory~彼女と彼の話~

├彼が風邪を引きました(九条麻衣side)

【九条麻衣side】
彼が風邪を引きました。


「病院へ行ったんですか?」
『それが、横になっていればそのうち治るって行かないのよぉ」
「ヒデ子婆ちゃん、仕事が終わったらそちらに行ってもいいですか?」
『天気が悪いけど大丈夫?』
「海斗さんが心配だから、傍で看病をしたいです」
『麻衣ちゃん、ありがとうね』
「また改めて電話しますね」
『分かったわ。無理しないでね、それじゃあね』

スマホの通話を終えて、ふぅっとため息をつく。

普段は私からヒデ子婆ちゃんに電話をかけるのが多いけど、お昼休みの時間にヒデ子婆ちゃんから電話がきた。
廊下に出て話を聞くと、海斗さんが風邪を引いたようで、病院へ行くことを拒否していて困っている、とヒデ子婆ちゃんが言う。

最近は天気が悪かったし、漁師をしている海斗さんの場合、海の上じゃ雨とか寒さで体調を崩してしまうこともあるよね。
病院へ行ってお薬を出してもらえば辛くないのに、行かないとは何か理由があるのだろうか。

 (姫川編集長に事情を話して、定時であがれるか相談しよう)

姫川編集長は私と海斗さんが交際しているのを知っているのだけど、他の社員には交際話していないから、廊下で相談してみようと決めた。

ICカードを使って編集部に戻り、眉間の皺を深ーくしてパソコンの画面を見ている姫川編集長に声をかける。

「姫川編集長、お仕事中にすいません」
「何だよ」
「相談したいことがありまして、廊下でも宜しいでしょうか」
「ここじゃ駄目なのかなよ」
「はい…」

海斗さんがって言いたいけど、プライベートだし、神妙になってしまう。

「分かった。おい、デスクの電話が鳴ったら折り返すって伝えておいてくれ」
「分かりました」

姫川編集長はタウン情報部の隣に座っているスポーツ部の人に声をかけて、パソコンの電源を落とした。

「廊下に行くぞ」
「はい」

私は姫川編集長の後に続いて、廊下に出た。
< 26 / 165 >

この作品をシェア

pagetop