AfterStory~彼女と彼の話~
私は台所に入って、ヒデ子婆ちゃんと一緒にお粥を作り始める。
ヒデ子婆ちゃんは葱と梅干しを細かく切り、私は隣でお米を研いで炊飯器にセットをした。

「昔ね、義理の娘が岳や海斗が風邪を引いた時にお粥を作ったんだけど、葱と梅干しを入れてたのよ」
「2人のお義母さんが…」
「そうなの。だから今も海斗が具合悪くなった時は、何を食べたい?って聞くとこの葱と梅干しが入ったお粥を食べたいっていうのよ」

ヒデ子婆ちゃんはどこか懐かしみながら、お鍋に水をはってコンロに火をかけた。

海斗さんと姫川編集長のご両親が離婚をして、お義母さんは姫川編集長と共に家を出たそうで、海斗さんはヒデ子婆ちゃんと一緒に暮らしている。

海斗さんと知り合った時はあまり家族の話をしてなかったけど、少しずつ聞くたびに思い出は辛い物ばかりじゃなくて、大きくなった今でも大切に残っているんだなと思うと、心が温かくなる。

ご飯が炊けたので、ヒデ子婆ちゃんと味見をしながらお粥を作っていく。
葱を散らし、梅干しもお粥に乗せた。

「うん、ご飯の柔らかさもいいわね。麻衣ちゃん、海斗の所に運んであげて。私はヨシハラのお爺さんのところに行くわ」
「分かりました」

私は食器棚から器を取り出して、お粥をそこに注いで、お盆に器とレンゲを乗せて海斗さんの部屋に向かった。

「海斗さん、ご飯が出来ましたよ」

襖を開けて、海斗さんの傍に座る。

「起きれますか?」
「ああ」

海斗さんは咳をしながら起き上がり、オデコにあてていたタオルを外した。

私はレンゲでお粥をすくい、ふうっと息を吹いて冷ます。

「ヒデ子婆ちゃんと作りましたよ。熱いので、気を付けて下さい」

そっとレンゲを海斗さんの口元に運ぶと、海斗さんは口を開いてお粥を含んだ。

「お味はいかがですか?」
「美味い……」
「良かったです。自分で召し上がりますか?」
「ああ、そうする」

私は器とレンゲを、海斗さんに渡した。
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