AfterStory~彼女と彼の話~
海斗さんはゆっくりとお粥を食べ始め、それをみて少しは良くなるといいなぁと思う。

「そういえば、姫川編集長は何を紙袋に入れたんでしょうかね。渡せば分かるって言ってたんですよ」
「さぁ…、開けてみるか」

海斗さんは器を置いて、傍にある紙袋を取って中身をみたら、フッと笑う。

「何が入っているんですか?」

海斗さんは紙袋を逆さまにしたら、中からドロップ缶が出てきた。
よくスーパーで販売してる苺やオレンジ味等の複数の味が入っているドロップ缶で、懐かしいなぁ。

「これ、俺がガキの頃に風邪を引いて喉を痛めた時に、兄ちゃんが買ってくれたんだ」
「姫川編集長が?」
「ああ。病院の薬って苦いから、コレなら良いだろう?って親に内緒でくれたんだ」

海斗さんと姫川編集長は口調がキツイけど、2人とも根は優しい人なんだよね。
だからこうして思い出を大切にしているのを傍でみれて、嬉しいと思う。

海斗さんはドロップ缶の蓋を開けて、缶を数回振って中の飴を出した。
色は赤と黄色で、赤を摘まむと私に差し出した。

「口、開けて」
「はい」

口を開けると赤の飴を入れられて、その味は苺味だった。
海斗さんは、黄色の飴を頬張る。

「海斗さんのは何味ですか?」
「レモンだ」
「私は苺です」

2人で飴を頬張っていると、海斗さんはドロップ缶を嬉しそうに眺めて、ラベルを読んでいる。

「……」

あれ、何だか海斗さんの眉間の皺が深くなっているような気がする。

「海斗さん、どうかしましたか?」
「……何でもない」
「明日は病院に行ってくれますか?」
「……行く」

何か渋々という感じに見えるんだけど、行ってくれると決めてホッとする。

「お粥、まだあるか?」
「ありますよ」
「お代わりしたい」
「いま温めなおしますから、待ってて下さいね」

私は器を取って、台所に向かった。

そういえば最初は病院へ行きたくないって言ってたのに、急に行くと決心したんだろう?

何せよ、此で体調良くなってくれればいいよね。


初めての看病は、海斗さんと姫川編集長の思い出を聞けたのが一番嬉しかった。


【九条麻衣side終わり】

→お次は姫川編集長目線
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