AfterStory~彼女と彼の話~
次の日、出勤前にコンビニに立ち寄った。

残業続きだし、苦味が濃いコーヒー缶とパンを選んでレジに向かうと、ガムや飴玉の陳列棚にドロップ缶があったので、手に取った。

 (確か―…)

海斗がガキの頃に風邪を引いた頃を思い出し、アイツが病院へ行かない理由も思い出したので、一緒に買った。

九条が来る前にドロップ缶のラベルに黒マジックペンで、海斗宛の伝言を書いて紙袋に入れて、出勤した九条に渡す。

「姫川編集長、お先に失礼します」
「んっ」

定時であがった九条を見送り、俺は仕事を続け、キリのいい所で四つ葉出版社を出て、【Bar Jewelries】に向かった。

「仁、久しぶりだな」
「……うん」

スポーツ部の編集長をしている仁がカウンター席にいて、何時ものようにロックを飲んでいる。

 (こいつ、編集部に顔を出さないから、働いてるのかサボっているのかわからんな)

「ミトさん、いつもの」
「いつものですね」

仁の隣に座って、ミトさんにビールを作ってもらったら、スマホに電話がかかってきたのでBarを出た。

『海斗だけど』
「何だよ、さっさと病院へ行けよ」
『まだ麻衣には話すなよな』

海斗は電話口で辛そうに咳をしながら、話をする。

「だったら早く治せ。母さんだって心配してたぞ」
『……うん』
「早く寝ろ、切るぞ」
『兄ちゃん』
「何だよ」
『飴、ありがとな』

海斗はそう言い終えると電話はブチッと切れたので、俺はBarの中に戻って席に座った。

ぶっきらぼうな言い方はガキの頃からかわってねぇなぁと思いながら、ビールを飲む。

「何か嬉しいこと、あった?」
「ん?ああ、弟と久しぶりに話をしたが、どうしてだ?」
「久しぶりに姫川の笑顔を見たなぁと思っただけ」

仁はロックを飲み、グラスを置く。

「そんなに分かりやすいか?」
「うん」
「まぁ…、風邪を引いた弟に悪戯したまでた」

俺は九条に預けたドロップ缶に書いたメッセージを思い出して、笑う。
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