AfterStory~彼女と彼の話~
残業をして、夜8時になった。

書類の山は大分消化して残り数枚までになったから、もうひと踏ん張りすれば帰れる。
少しの間だけでも良いから美空の所に行きたいと、それを糧に赤ペンで文字の訂正をしたり、伝票に印鑑を押していく。

「水瀬編集長、お先に失礼します」
「お疲れ様、気を付けて帰ってね」

殆どの部下が帰宅し、俺もこの1枚を訂正すれば仕事が終われる。

「この箇所と、ここを訂正…っと」

白い紙の半分が赤ペンで染まっているが、ようやく今日の分の仕事が終わったので、コートを羽織ってバックに貴重品を入れて、俺は編集部を出て美空の元に向かった。

電車に乗っている中で、昼間の会話を思い出す。

『男が料理を作ってくれたら凄く嬉しいですよ』

普段は美空に作って貰ってばかりだし、せめて返せるとしたら俺も作ってみようかな。

スマホを取り出して、俺でも作れそうなレシピを探してみる。
手の込んだのは時間がかかるから、ここはポトフという料理にしてみようと決めた。

美空が住む街の最寄り駅に降りて、冬季休暇に来た以来のスーパーに立ち寄る。
カゴの中にじゃがいも、人参、鶏肉と材料を入れていき、会計を済ませて美空のアパートへ向かった。

インターホンを鳴らすと、ガチャガチャという音がしてドアが開く。

「幸雄さん、今晩わ」
「遅くなったけど、熱は?」
「薬を飲んで少しは楽になりました。入って下さい」
「お邪魔します」

俺は中に入って靴を脱ぎ、スリッパを履いてキッチンにスーパーで買った袋を置いた。

美空からハンガーを渡されて、コートをかける。

「今からポトフを作るから、美空は横になって休んでいて」
「ありがとうございます」

美空がベッドに横になったのを見届けて、俺はスマホでポトフのレシピを見ながら作り始めた。
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