AfterStory~彼女と彼の話~
 私は食器を台所に下げて、洗い始める。

「食器を拭く」
「ありがとうございます」

 私の隣に海斗さんが立って2人で炊事を始め、こうしてると何だか新婚生活みたいで、久しぶりに海斗さんに会えたせいもあり、一人で気持ちが盛り上がる。

「ニヤニヤしすぎ」
「そうですか?」

 顔にまで出てたんだと思い、ゴホンッと咳払いをする。

「やっと仕事納めだから、大晦日は一緒に過ごせる」
「本当ですか?」
「嘘を言ってもしょうがない」
「すごく嬉しいです」

 私は洗う手を休めて満面の笑みを海斗さんに向けると、海斗さんも手を休めて私の頭をポンポンと優しく叩く。

 手、おっきいな…、漁師特有かもしれないけれど海斗さんの手は大きくて厚みがあるけども、私に触れる手つきは優しくて大切にしてくれてるのが伝わる。

「ほら、まだ洗っていない食器があるぞ」
「はい」

 また2人で食器を洗ったり、拭いたりして片付けて、一段落して自分が泊まる部屋に戻り荷物を取り出しす。

 ここには元旦とその次の日まで過ごすので、着替えも多めに持ってきた。

 私はヒデ子婆ちゃんから渡された寝間着としての浴衣に着替える。

「これで大丈夫かな」

 荷物を散らかさないようになるべくコンパクトにしてきたつもりでも、やっぱ多すぎたかな。

 元旦の翌日までは海斗さんが働く漁港は休みだから、ゆっくり出来そうでホッとする。

「入っていいか?」
「どうぞ」

 襖越しに海斗さんの声がして私は入ってもいいと返事をすると、襖が静かに開き、海斗さんも同じように浴衣姿だった。

「海斗さんは和装とか似合いますよね」
「そうか?」
「はい、素敵ですよ」
「あんたの方が似合ってる」
「ありがとうございます」
「本当のことだ」

 はにかみながら答えると海斗さんは私の隣に座り、私の髪を弄る。

「やっとあんたに触れられる」
「海斗さん、ヒデ子婆ちゃんが…」

 声を出したら気づかれちゃう。

「大丈夫だ」
「で―…」

 言葉は海斗さんの唇で塞がれ、そのまま押し倒された。
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