AfterStory~彼女と彼の話~
俺は刑事課に戻ると、報告書の続きをする。

「もう1人の犯人も捕まったそうだ」
「やれやれ」
「生活安全課に凄い女がいるもんだな」
「……」

俺は会話に入らず、黙々とペンを走らせる。

「南山、宿直を頼んだぞ」
「はい」

先輩刑事たちは帰り支度をして刑事課を出ていったら、入れ替わりで30分前に休憩に行っていた山さんが入ってきた。

「あー、腹が一杯になった」
「それは良かったです」
「可愛くねーな」
「それは狙ってませんから」

報告書に取調室での様子を書きながら、山さんに返事をする。

早く終わらせて帰りたいし、びしょ濡れになったスーツをクリーニングに出したいし。

「しっかし、東雲って奴は確保する度に何かをやらかしてるな」
「……」
「宿直室で横になってるが、ありゃ風邪を引くな」
「……」
「何か言えよ」

俺はペンを置いて、報告書をバンッと強く閉じた。

「ご飯、食べてきます」
「1時間で戻ってこいよ」
「……分かりました」

財布をズボンのポケットに入れて、刑事課を出る。

 (俺だってあそこまでするとは思ってなかった)

廊下を歩いて分岐路につくと、左に行けば外に行く通路で、右に行けば宿直室だ。

『宿直室で横になっているが、ありゃ風邪を引くな』
『1時間で戻ってこいよ』

山さんの言葉が浮かぶ。

「休憩は30分に決まってるだろ」

小さく呟いて、左に向かおうとするが、ピタッと立ち止まる。

「……ちっ」

舌打ちして、左に曲がらず、右の方に曲がっていった。
< 58 / 165 >

この作品をシェア

pagetop