AfterStory~彼女と彼の話~
 翌日、私と海斗さんは御節の買い出しをしに街を歩くけど、静かで人も少ないような気がした。

「年末なのに、静かですね」
「観光客は過ごしやすい夏にくるから、今は静かだな」

 海斗さんは静かな街並みを眺めながら話す。

 確かに私が初めて訪れた時も夏になりかけていたから、観光客が多かった。

「小さい頃はヒデ子婆ちゃんやヨシハラの爺さんが餅を焼いてくれて、親父が漁で魚を釣ってくれたのを食べるのが俺の正月だったな。今回はあんたがいるから、ヨシハラの爺さんは餅をつくのを張り切ってる」

 ヨシハラの爺さんとは定食ヨシハラの初代オーナーで、いつもお店の前でお客さんを呼び込んでいるお爺ちゃんで、私が初めて訪れた時も声をかけられて、そして海斗さんに出会うきっかけにもなった。

「あの時、あんたが海に落ちたのは今でも覚えてる」
「ご面倒おかけしました」
「二回も落ちるとは思わなかったけど」
「それは…、なんとも……」

 そう、私は二回も海に落ちてるのだ。

 一回目は被っていた帽子が風に飛ばされて取ろうとして、二回目は、私を避ける海斗さんに振り向かせる為に自分から落ちて、二回とも海斗さんに助けてもらい、こうして側にいられる。

「おーい、麻衣ちゃん、海斗もよく来たね」

 定食ヨシハラの前で、ヨシハラのお爺さんが手を振っている。

「こんにちわ」
「元気かい?」
「はい。ヨシハラのお爺さんも」
「わしゃ元気さ。ほら、息子と餅を作ったから持って帰りなさい」
「爺さん、ありがとう」

 ヨシハラのお爺さんは、海斗さんにお餅が入った袋を渡す。

「麻衣ちゃん、海斗、良いお年を」
「はい!」

 私たちは定食ヨシハラを後にして、更に買い出しをする為に街を歩く。

 そして以前雑誌をつくる時に訪れた路地裏の雑貨屋の前にきたけど、定休日でお店は開いてなかくて、残念だけどまたこよう。

 この日は買い出しを中心に歩いて、1日が過ぎていった。
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