AfterStory~彼女と彼の話~
テレビのCMやお店のディスプレイもバレンタインデーの飾りがあって、今年は海斗さんにチョコを渡すと決めている。

恋人にチョコを渡すなんて凄く久しぶりだからどきどきしてるし、海斗さんの反応もどんな風になるかなと想像するだけでも楽しい。

「にやにやしてねぇで、早く企画書を出せ」
「……すいません」

姫川編集長のキツイ言葉にハッと意識を戻して、キーボードを打ち込む。

私は今後タウン情報に取り上げたい地域について姫川編集長に提案するため、原稿の制作と同時進行で企画書を書いているのだ。

ファッション部にいた頃はメンバーが多かったから雑誌の進行がしやすかったけど、タウン情報部に異動してからは抱える仕事の量が倍増したような気がする。

それでも私はまだましで、姫川編集長は印刷所にかけあったり、取材先へのアフターフォローや事務作業をしているので、自分は大変だなんて言えない立場だ。

「やっほー、皆働いているかい?」

編集部のドアが開いたと同時に高坂さんが入ってきて、いつものように明るい声が編集部に広がる。

「お前より働いているから、さっさと手短に用件を言え」

姫川編集長もいつものように、高坂さんを冷たく言い放つのは最早慣れた。

「もうすぐバレンタインデーだけど、今年の2月14日は土曜日だから、我が四つ葉出版社のバレンタインデーは前日の2月13日の金曜日にするからね」

それじゃあと高坂さんは手をひらひらと振って、編集部を出ていった。

「ほんとに手短でしたね」
「ったく、物好きな奴だな」
「私たちの部署は、私が代表で買いますね」
「そうしてもらえると助かる」

姫川編集長は深くため息を吐いて、キーボードを打ち込み始めた。

 (2月14日は土曜日なんだ)

てことは仕事は休みだから、当日は海斗さんの所に行けるかもと、また頬が緩みまくる。

「にやにやしてると、企画書を読まねえぞ」
「……はい」

姫川編集長の言葉に、緩む頬を引き締め直した。
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