AfterStory~彼女と彼の話~
2月14日、宿直明けで帰り支度を始める。

一旦帰宅して、その後は沙紀と映画を観に行くという流れになっていて、翌日は公休だ。

「…―以上が引き継ぎ事項です」
「分かった、お疲れさん」
「お先に失礼します」

早朝出勤の先輩と業務の引き継ぎを済ませ、刑事課を出た。

「あの、南山さん」
「何ですか?」
「これ、受け取って下さい」

婦警に呼び止められて、綺麗に包装された物を差し出された。

 (今日ってバレンタインか)

改めてそう実感をしたけど、沙紀の顔が浮かぶ。

俺たちが付き合っていることを知っているのはごく僅かな人しかいないから、こういう状況になるのは仕方ないが、狭い署内で受け取ったことが広がれば沙紀の耳にも届くし、傷ついた顔はさせたくないし、俺は受け取らない姿勢を持たなきゃな。

「すまないが、受け取れない」
「捜査で疲れた時にでもいいので、召し上がって下さい」
「悪いが、受け取れないのは受け取れない。このあと大事な用事があるから、もう行く。俺のことはもういいから」
「そんな…」

婦警から振りきるように廊下を歩き、署内を出ようとする。

「南山さん、バレンタインのチョコを受け取って下さい」
「……受け取れない」

出入口でも声をかけられて、辟易してくる。

押し付け的な物は一ミリも嬉しくないし、貰えて嬉しいと思えるのは大切な人からだけだ。

早く沙紀に会いたいし、俺は声をかけてきた人たちに次々と断って帰宅して、時間になるまでただっ広いベッドに横になってみると、1人だけだと広すぎて寂しいし、本当は沙紀が隣にいてくれたらいいのにな。

まだ俺たちは一線を越えてない。

キス以上のことを越えられないのは、沙紀が何処と無く避けているのが見て分かるからで、何かきっかけがあればいいのにな。

「中学生かよ」

体と年齢だけデカいのに、考え方が小さいな。

こればかりは、うじうじしてもしょうがない。

「行くか」

先ずは映画を観て、それから考えよう。
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