意地悪姫の反乱
ジュリアがいない。
昨日までいたのに今日になって突然姿を消した。
昨日の食事の約束にも来てくれなかったし、何かあったのかと心配になって部屋を訪ねたがもぬけの殻になっていた。
周囲の客達に聞いて回ったが何故かみんな揃ってそんな女性は知らないというばかり。
警備隊に聞いても皆一様に口を揃えてなにも知りませんと言う。
何故だ?どうして?有り得ない。
昨日は確かにいたのだ。
どうして皆彼女が最初から居なかった様に振る舞う?
ルウドの知らない何かがあったのだ。彼女に一体何があった?
ルウドは真相を究明すべくハリスの元へ向かう。
彼ならジュリアについて何か知っているに違いない。
ハリスの隊長部屋に向かうと彼は珍しくも部下に指示を出し、真面目に仕事をしていた。
いつもの余裕な感じがなくなっている。
「いいか、不審者がいたら構わず声を掛けろ、見逃すなよ、大事なことだからな」
三番隊の仕事は主に城内警備。
皇族や主要人物のいる部屋の入口辺りに配置されるのが仕事だがそれほど気を張る仕事でもない。
そもそもドアの前で始終緊張し続けるなど不可能である。
「…失礼、ハリス、少しいいだろうか?」
「…ルウド…」
ハリスは気まずそうにルウドを見た。
彼の部下達は即座に持ち場へ走っていって部屋はあっという間に空になる。
「…私の所には何の通達もないが、この隊だけやけに忙しそうだな」
「まあちょっとね。内密で処理しなければならない仕事があってね。
それはそうとどうかしたかい?」
「先日相談したジュリアさんの事なのだが。とても信じがたい話なんだが突然姿を消してしまったんだ。周囲の者達に聞いても誰も知らないと言うし。
何がどうなっているのかサッパリ訳が分からない。
ハリス、何か知らないか?」
「……」
すがるような目をルウドに向けられてハリスは居心地悪そうに身じろぎする。
「……ルウド、もういないと言うことは国許へ帰られたのではないかな。突然用事で帰郷する人もたまにおられるし」
「……そんな、昨晩は彼女と食事の約束をしていたんだ。私に黙って、いきなりそんな…」
「まあそんなこともあるよ」
「そんな馬鹿な。では何故お客も護衛も彼女を知らないと言うんだ?昨晩何かあったとしか思えない。一体何が起きたんだ?」
「……たまにいるね。そう言うお客も……」
ハリスは苦しい言い訳をした。ますます怪しい。
「ハリス、私にも言えないことなのか?」
「……聞かなくてもいい事ってあると思うよ?」
「本当に私の耳にいれなくていいことか?」
ルウドがジリジリと間合いを詰めるとハリスが視線をそらして笑って誤魔化す。
「……困ったな、一応機密事項なんだけど…」
「なに?」
女性の秘密が隊の機密などとはただ事ではない。
「私だって隊長だ、機密は守る。教えてくれ」
「ええと、その…」
「じれったいわねえ、ハッキリ言ってやりなさいよ!」
入口からティア姫が現れた。
「あの女はスパイ。この城には情報収集にきたのよ。あなたのことはただの暇潰し」
「スパイ?そんな馬鹿な……?」
ルウドがまじまじとハリスを見るとハリスは気まずそうに頷いた。
「早くに気付いた姫様に調査と監視を依頼されていてね、彼女が白状して逃げ出した後は考慮すべき問題の対策を取っていたんだ」
「問題?」
「まあ現状で考えうる限りの対策をね」
「この国に他国が欲しがる情報など…。本当に彼女が?」
「どこかの国に依頼されて来たのよ。だから問題なんでしょう?
他国がうちの何を知りたかったのか、それが分からないから。
一番傍にいた人は何も気付かないでご機嫌とりして浮かれていたし」
「ひ、姫様っ、その様な事を言っては…」
「……分かった。私の隊も協力するからいつでも要請してくれ。無理に聞き出して済まなかった」
ルウドは何も考えられず、よろよろと部屋を出ていった。