On My Beat
Beat#4 influence
 8月の夏祭り前夜祭。ここが兄ちゃん達初舞台。夏祭りのステージが初舞台とはなんとも田舎チックじゃないか。「今日ね、兄ちゃん達ここで演奏するんだよ」「夏祭りは人がたくさん来るぞ。恥かくんじゃないか?」父ちゃんは変に心配性だ。「電気や行ってフィルム買っといで」母ちゃんは記念に写真でも撮るつもりだ。

 昼間から小学生の鼓笛隊や老人会の民謡などの出し物があり夕方からは若者向けのコンサートだ。昼間から始まる『前夜祭』ってなんだろう?子供の僕は疑問を持ったまま父ちゃんの帰りを待った。日が落ち始めて父ちゃんに手を引かれ母ちゃんと三人で会場へ向かった。会場につくや父ちゃんは夜店でビールを買い満足そうな顔でノドを鳴らした。「もう飲んでのかい?」母ちゃんはあきれて言うと「息子が恥かく所をしらふで見られるか」父ちゃんはあまり乗り気じゃないようだった。
 いくつかの雑音のような演奏を乗り越えていよいよ最終組の番。兄ちゃんだ。
ステージには見覚えのある兄ちゃんの友人達がベースやギターを抱えスタンバイをしている。とっくに日が落ちてさっきまでスポットライトを浴びていたステージは次の演者を待ち構えていた。夜店で買った『ブルーハワイ』なるカキ氷で青くなったベロを母ちゃんに見せようと横を向いた瞬間だった。兄ちゃんの部屋で聞いた女性の悲鳴にも似たギターのうなりとあのフレーズ。「兄ちゃんだ!」『ブルーハワイ』はもう手の中には無くなっていた。
 
  轟音。閃光。奇声と悲鳴

  「Roc'n Roll!! 」  

僕の身体を今、間違いなく稲妻が走った。言葉では言い表せない感情が小学生の僕を包み込む。(あの場所へ・・・)

数曲を終えると兄ちゃんがマイクを持って叫ぶ。
 
「ようこそ!SEWWTの初ライブへ!」 
右手を上げた群集が津波のようにステージへ駆け寄る。兄ちゃんはアイドルじゃなかった。TVでみる悪党に立ち向かう戦隊よりもかっこいい。

僕には『HERO』だったんだ。 
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