古本屋のあにき
 涼介は健にエプロンを渡すと、客のところに行った。客は涼介の高校の時の後輩らしい。鼻筋の通った優し気な顔立ちの涼介は、結構モテる。あの客だって、涼介目当てに来たのがまるわかりだ。
 
「せんぱぁ~い。おすすめの本ってありますぅ?」
 
な~にが「せんぱぁ~い」だか。
涼介も涼介で、「そうだな……」といいながら、髪をかき上げ、「これなんかどうかな」と言いながら、客の肩に手をかけ、客の後ろ少し上にある本を取るというテクニック。ホストかオメエは!
 
 客もうれしそうにその本を買っていきやがる。お前、ほんっとにその本、欲しかったのか?よく考えろよ?……そして最後に極め付け、耳元で。
 
「またおいで、待ってるよ」
 
 客はもうメロメロ。
 
 
「おまえさ、それ、詐欺だろ?」
 
「そんなことないよ。あの子は高校の読書感想文で、なんかの賞をもらってるんだ。その時に扱った本と同じ作者の本だから、きっと楽しんで読んでもらえると思うよ」
 
「じゃあ、そう言って売ればいいじゃねえか!わざわざホストまがいのこと、やらなくても」
 
「いや、ほら接客業だからさ、やっぱりサービスは必要だろ?」
 
 自分のことをかっこいいと自覚しているやつのセリフだな、そりゃ。
 
 ……まあ、あの子が固定客になるのは間違いなさそうだ。
 
「おまえもさ、モテそうな顔してんだから、そんな奥にいないで、もっと表で仕事してアピールしろよ。お前目当ての客が来るかもしれないだろ」
 
「はあ?俺は、この棚の撤去作業の手伝いのために、働いてるんじゃなかったっけ?!接客はしねえよ!」
 
「へえ~、時給300円でいいんだ」
 
「おいおい、値下がりしましたけど?」
 
「今日の売り上げが良かったら、もっと払ってやれるのになあ。つらいなあ経営者は……」
 
「わかったよ、やるよ!やりゃいいんだろ?」
 
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