古本屋のあにき
 その後健は、棚の本をわざわざ表まで運んで、中に持って入るというめんどくさい仕事をさせられた。
 
「重たいものを持つ男の腕がさ、女の子は大好きなんだよな」
 
 ばばあしか通らねえじゃねえか!こっち見んじゃねえよばばあ!
 
「健、笑顔!」
 
 健はひきつった笑顔を見せた。
 
 その後、何人か涼介目当ての客が来た。その中でも、とびっきりだったのが、小学1年生くらいの女の子。こんなちっこい子にも、モテんのかよ、すげえよ涼介。
 
女の子は絵本を手に取ると、トコトコと中に入っていき、指定席のような小さな椅子にちょこんと座り、絵本を開いた。
 
「この子、毎日来るから」
 
「こんなちっさい子、本なんか自分で買わねえだろ?」
 
「いいんだ。この子は立ち読み・・座り読みかな?専門の子だから」
 
「金になんねえじゃん、経営者さんよ」
 
「大丈夫。この子もいずれ大きくなって、本代を自分で払える年になるから」
 
「気の長いことだな」
 
 この店をずっとやっていきたいという信念みたいなものを感じた。やっぱりすげえよ、涼介。
 
 夕方になり、棚の下の方は片付いた。あとは上のほうだけだ。先に上の方から出せばよかったかもしれない。重心が上にあってちょっと危険な感じだ。早く上の本を出そうと思い、脚立を用意した。
しかし、ちょっと尿意を感じ、先にトイレに行くことにした。
 
 涼介は電話で本の注文を受けている。へえ、本の配達までやるんだ。
 
トイレから戻ると、絵本を読んでいた女の子がいない。帰ったのかなと思うと、向こうからガチャガチャ音がする。
 
まさかと思い見に行くと、あの女の子が一人ですごく高い脚立に上っていた。
 
「危ない!」
「え?」
 
 女の子が健の方を向こうとして、体勢を変えた瞬間、脚立がぐらりと動いた。
 
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