古本屋のあにき
 脚立から落ちて来る女の子を何とか受け止める、こっちに向かって倒れて来る脚立。
 
女の子が本棚につかまっていたせいで、本棚も倒れて来る。
本棚よりも先に落ちて来るたくさんの本……あわてて女の子の頭をかばう……。
健には何もかもがスローに見えた。
 
「健!」
 
 でかい音がして、すごい重みがのしかかる。
少し肩を打ったが他に痛いところはない。・・・あ!女の子は?身動きが取れない。
 
ざわざわした声が聞こえてきた。たぶん近所の商店街のおじさんたちが来てくれたのだろう。
一番重いらしい物が健の上から、どけられた感じがした。少し体を起こすと、腕の中に女の子がいた。びっくりしすぎて泣くのも忘れているみたいだった。
 
「大丈夫か?」
 
 声をかけるとダムが決壊したかと思うような、涙と声。わんわん泣く声に健もほっとした。
 
最後の脚立が健の上から離れると、健の肩からずるりと男の体が落ちる。どさりと床に倒れた姿は紛れもなく涼介だった。頭から血が流れている。
 
「涼介!涼介!!マジかよ!しっかりしろよ!!」
 
 一人の男の人が携帯で救急車を呼ぶ。
 
「救急車呼んだよ。涼介さんの頭、あんまり動かさない方がいいよ」
 
「この子は連れて帰るね」
 
 聞き覚えのあるおばさんの声だったが、返事もできなかった。
 
「おい!まだか!救急車はまだ来ねえのか!涼介の!……涼介の血が……!止まらねえんだ!何とかしてくれよ!……頼むよ……。おい!救急車!まだか!」
 
 健の叫びが店中に響く。
 
「……お前……耳元でうるせえよ……」
 
「涼介!」
 
涼介がゆっくり手を動かし、大丈夫だとでも言うように、健の手の上にポンとおいた。
 
「涼介!涼介!涼介!」
 
 健の手を力なく握る涼介。健は必死で握り返した。
 
その時、古本屋の玄関の方から救急車の音がした。
 
「どいて!」
 
救急隊員が涼介の応急処置をしている間、健は涼介の手を離さなかった。
 
離すと涼介の意識が途切れてしまいそうで怖くて、怖くて、たまらなかった。
健は救急車に一緒に乗り込み、病院に行った。
 
 
 
< 4 / 7 >

この作品をシェア

pagetop