星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
「お疲れ様。
新曲、順調そうか?
夜にニューヨークに移動した十夜から、
新曲の歌詞が一つ届いてた」
そう言いながら、ノーパソを起動して
メール画面を二人にも見せる。
「メインフレーズは、この間三人で決めた奴ですよね。
この歌詞になるんだったら、
こんなアレンジでどうですか?
あっ、でも兄貴だったら……こっちかな?」
雪貴はゼマティスを抱えながら、
そんな言葉を発する。
最初は隆雪のコピーだけをしていた雪貴。
その雪貴の音色は、隆雪の代わりをつとめつづけるうちに
確実に進化を見せて、
今はコピーではなく雪貴自身の色を持つようにまで成長していた。
その雪貴自身の色を殺して、
隆雪の色を模倣しようとする。
時折、辛そうな表情を見せる雪貴に気が付きながら
何事もないように、俺はAnsyalの託実として振舞いつづける。
「TAKA、次の小説。
交互にソロパートを入れてみたらどうだろう?
例えばこんな風に」
そういいながら、祈と二人、
アレンジの打ち合わせをしてる二人をスタジオに残して
俺はまたスタジオを後にした。
事務所の下の階の、レッスン室として習い始めたばかりの頃から
使っていた部屋へと引き籠る。
壁にかけてあるベースをアンプに繋いで、
基本練習を辿るように、順番に演奏を続けていく。
基本から始まったそれは、やがてAnsyalのフレーズへと移り
夏前に手伝ったSHADEの怜さんの曲。
18時頃まで無心にベースを演奏し続けて、
再び愛車へと戻り、彼女の職場へと車を走らせた。
また何処かで行われていたギャラリーから引き上げてきた
彼女はすでに、制服から着替えを済ませて俺の到着を待ってくれてた。
「こんばんは。託実さん」
駐車場に車を停めた途端、駆け寄って来てくれる彼女。
「遅くなってごめん。
乗って」
運転席から降りて、助手席のドアを開けると
彼女に乗るように促す。
彼女は俺にお辞儀をして、
随分となれたように助手席に身を滑らす。