星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】



画廊の裏口からは、
着物姿、彼女のお祖父ちゃんが目を細めながらこちらを見てる。


俺は黙ったまま一礼すると、
すぐに運転席側へと移動して乗り込み、車を走らせた。




「託実さん……今日は何処に行くんですか?」

「今日も何時ものホテルに行ければと思ってる」

「少し寄りたいところがあるんです。
 寄ってもいいですか?」


彼女はそう言うと、真っ直ぐに俺に視線を向けた。



「構わないけど近く?」



真っ直ぐにフロンドガラス越しの景色を見つめながら返事をする。




「えっと……連れてって欲しいんです。
 前に託実さんとお逢いした、あのお寺の駐車場まで。

 その途中にお花屋さんがあれば立ち寄りたいんだけど」



彼女の言葉に、ドキリと鼓動かおかしくなる。




あの場所は……理佳も眠っている。




「前に大切な人が眠ってるって教えてくれたよね。
 
 百花ちゃんの大切な人の話、
 聞いてもいいのかな?」


日が暮れていく車内。

二人きりの空間で、
直接彼女に聞くことが出来なかったことを思いきって切り出した。



「あぁ、あそこで眠ってるのはお姉ちゃんなんです。

 お姉ちゃんは、私が小さい時に心臓が悪かったみたいで
 殆どあうことはなかったんです。

 ずっと病院に入院してばかりだったから。

 殆ど、会ったこともないし覚えてないんだけど
 だけど大切な家族だから……」





そう言って彼女は話すのをやめた。



それ以上、深く話を突っ込むことは出来そうになくて
車内に沈黙だけが走る。


行き慣れたお寺近くのお花屋さんに滑り込んで、
彼女は花束を購入すると、
俺は再び、駐車場へと車を停めた。



「お水も持って行かないといけないよね。
 ついていこうか?」



そうやって声をかけた俺に、彼女は助手席のドアを開けながら
やんわりと首を横にふる。



「託実さん、ごめんなさい。

 お気持ちは嬉しいけど、今日は一人で行きます。
 すぐに戻ってくるので、申し訳ないですけど待っててください」



彼女はそう言うと、鞄を車内に残したまま
花束を手に墓地の方へと走って行く。




一人残った車内で、俺は彼女の言葉に悶々としていた。

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