星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
*
なぁ……隆雪。
雪貴を壊してまで、
Ansyalを守ろうなんて
お前は思ってないよな。
けど……俺はどうしていいかわかんねぇよ。
俺もアイツを壊したくない。
だけど……今の俺には、
Ansyalの存在が、俺たち以上に
アイツ自身を支えてる……そんな気がするんだ……。
*
ベッドに眠り続ける隆雪に吐き出す言葉。
ふいに病室のドアが開けられて、
見慣れた裕兄さんと、高遠先生が入って来る。
「託実……」
「託実くん、来てたんだね。
仕事は順調?」
当たり障りのない声をかけながら、
真っ直ぐに隆雪の方へと向かう高遠先生。
俺は雪貴のことを頼みたくて裕兄さんの近くへと移動する。
「裕兄さん」
「どうかした託実?」
「今度、雪貴見かけたら捕まえて気にかけてやってほしい。
さっき、顔色もあんま良くなかったし、
胃の辺りに手が伸びてた。
調子悪いのかも知れないから」
「それに関しては気にしなくていいよ。
私じゃなくて、悠久が責任持って対応するよ。
原因はわかってるから。
雪貴にとっても彼女にとっても、
複雑な思いでいるだろうね。
託実には詳しく話せないけど、宝珠からの情報も入って
ちゃんと対処は考えてる。
だから託実は託実のことだけを考えるといいよ」
裕兄さんはそう言うと、
悠久さんに一言声をかけて隆雪の病室を出ていく。
雪貴のことが気になりながらも、
その後は、会うことなくピアノコンクール当日が訪れる。
百花ちゃんと逢えることを信じながら、
会場へと向かうと、入り口近くで高遠先生の姿を確認する。
「おはようございます。
高遠さん」
「おはよう。
託実君、君も雪貴君の応援かな」
「はい」
「じゃあ、一緒に行こうか」
俺は言われるままに予定外の人と一緒に、
関係者入口から、身分照会を経て楽屋へと通される。
高遠先生の手には黒鞄が手にされている。
楽屋に入ると、ステージ衣装に身を包んだ
ファイナ出場者が緊張した面持ちでその時がくるのを待っていた。
その部屋の片隅、少し仕切りを作った奥で
パイプ椅子にぐったりと体を預ける少し体調の悪そうな雪貴を確認する。