星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
何時もはグランドピアノを時間があったら触ってる唯香。
だけど唯香のピアノの蓋は今は閉まったまま。
明らかに様子がおかしいんだけど……。
「唯香、はいっ。
これお土産」
そう言いながら近くのコンビニで購入したシュークリームとジュースを差し入れすると、
唯香はキッチンから、コップとお皿を手にして戻ってきた。
「あのさ……唯香が良かったら、
コンクールの日、一緒に行ってもいい?
私、コンクールなんて見るの初めてなんだけどさ
私のお姉ちゃん、ピアノが凄く上手かった人なんだよね。
だから生きてたら、出てたのかなーなんて思ったら
少し覗いてみたくなったの」
突然、行きたいなんて言い出したら
何を思われるかわかんないから、此処に来る車内で考えた言い訳。
託実と逢えるからって言うのは、
あまりにも非常識すぎるから。
「百花ちゃんのお姉ちゃん、
ピアノが上手い人だって言ってたよね……確か。
けど私……悩んでる。
夏休みの退院の前日にさ、裕先生がセッティングしてくれて
DTVTと宮向井君の演奏を聴く機会があったの。
凄く素敵だった。
素敵で感動したのと同時に、自信喪失しちゃった。
偉そうに先生ぶって指導してたつもりでも、
彼はとっくに私よりも高いところにいる……」
そんな風に小さな声で吐き出す唯香。
「だけど唯香は、宮向井君の先生なんでしょ。
唯香が逃げ出してたら、
彼は今、一人でこの重圧と戦ってるの?」
責めたいわけじゃないけど、
そんな言葉しか出てこない。
それは私自身の懺悔にも似た
そんな感情。
私もお姉ちゃんことから逃げだしたから。
唯香はただ黙ったまま、
差し入れたシュークリームをかじってた。
まっ、シュークリームが食べれるってことは
夏休みのあの時ほど酷くないって
解釈してもいいのかな?
あの時は、アルコールだけで
食べ物を体が受け付けなくなってたから。
そんなことを思いながら、
唯香の隣で私も、シュークリームの袋を破って
一口、また一口と口に入れていく。
その後は、
久しぶりにお互いのいろんなことを話し合う。
託実さんと付き合いだしたことは、
まだ唯香にも話せない。
そして今の唯香には、
Ansyal談義も出来ない。
だからそれ以外のこと。
化粧品のこと、最近描いた絵のこと
気になる雑貨のこと。
雑誌を片手に、
いろいろと話しながら夜が更けていく。
帰宅するのを諦めて、唯香のマンションでお泊り決定。
狭い部屋、グランドピアノの下に寝転がる二人。