星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】



「唯ちゃん。

 兄貴の手、握ってやってよ。

 唯ちゃんが握ってくれたら、
 兄貴も喜ぶと思うから。

 ほらっ、唯ちゃんが好きな、
 AnsyalのTakaが此処にいるよ。


 ここに、Ansyalの
 メンバーも全員いるだろ」



あのバカっ!!
なんだって、コイツは大馬鹿野郎なんだよ。



誘う様に雪貴の言葉に誘導された唯香ちゃんは、
隆雪の手を取りながら、空白の記憶を取り戻しているのか
『……TAKA……』と呟く。



慌てて、雪貴の行動を止めようと
兄貴たちの姿を探して駆け寄るものの、
裕兄さんが無言のまま首を横に振った。



確信犯?


このまま黙って見てろって言うのかよ。

この後、まだ続くんだぞ。
どうしろって言うんだよ。


臨終間際の病室。


隆雪の命を刻み続ける心電図の音が
室内に響いていく中唯ちゃんが泣き叫ぶ声が響き渡る。


それと同時刻、
行き場のない想いで拳を作って壁を叩いた。


心停止を告げるアラームが、
理佳が旅立ったあの日のアラームと脳内で重なっていく。

唯香ちゃんはアラームと同時に失神して意識を失い、
おばさんの泣き声が病室に響き渡る。

実夜は部屋を飛び出し、
十夜は『バカやろう』と声を震わせた。



だけど俺は……
ただ真っ白で何をすることもなく
機械的に今が流れていくだけだった。

全ての機能を麻痺させてしまったかのように。

ようやく出来たのは、震え続ける雪貴を
背後から支えること。


唯ちゃんが病室から運び出され

「午後20時40分。
 ご臨終です」

隆雪の主治医がその命の終わりを告げた。


唯ちゃんが連れ出されおじさんに抱えられるように、
おばさんさんが病室から連れ出される。


雪貴はヨロヨロと隆雪に近づいて、
アイツに頬に手を伸ばす。

そんな雪貴を不安に思いながら俺も、
病室を後にする。

今の俺は、Ansyalのリーダーとしての
役割をやり遂げる。


「十夜、憲、祈。
会長たちに逢ってくる」

「オレも行く。
 紀天、この後のオレのスケジュール社に連絡してキャンセル。

 託実、警備の人間はウチから貸し出す」


すぐに思考を切り替えた十夜と共に、
俺は会長たちが居るはずの、兄さんたちの元へと早足で移動する。


最上階の裕真兄さんの専用ルームへ向かうと、
そこには、隆雪の父親と宝珠姉と高臣会長がすでに打ち合わせを始めていた。

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