星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】



それは凄く嬉しいけど、
あんなに大好きなAnsyalのサウンドも
今は何故か届かない。

そんな私が、
託実に逢う資格なんてあるわけないじゃない。



「ほっといてよ。

 今は一人にして、今までも散々放ってきたくせに、
 今更、母親ずらしないで」



全身の拒絶。
言葉の暴力。


そうとは自覚しても発せずにはいられない憤り。







今の私みたいだよ。
醜すぎて。




自分の部屋から飛び出して駆け込んだのは、
お姉ちゃんの部屋。




主のいない部屋で、
お姉ちゃんのベッドに突っ伏して声を殺す。


ふと……視線を向けた先には
セピアに色褪せたお姉ちゃんの写真。



純粋な笑みを浮かべ続けて微笑み続ける写真の中の
お姉ちゃんは天使みたいに綺麗で、
その度に……私自身の醜さを自覚させられて。



お姉ちゃんのところに行かなきゃ。
お姉ちゃんに逢いたい……。


ただそんな思いに急きたてられて、
私は自分の部屋で服を着替えると、
鞄を持って、玄関の方へと向かった。


「百花?
 貴女、そんなかっこうして何処行くの?」

「病院」

病院なんて行く気ない。



ただ……居場所を喪失した私は、
もうどうしていいかわからないから。



「そう。
 なら……お母さんも……」


「いいよっ。来なくて。

 それに……向こうで、
 唯香と合流するの決まってるから」





何言ってんだろ。



嘘に嘘を塗り重ねて。

唯香なんて……ここ暫く、
連絡すら取れてないのに。




逃げだすように玄関から出ると、
寒空の下、コートの中で震えながら
走らせる車。



闇雲に街の中を走らせて続けて
最後に辿り着いた場所はお姉ちゃんが眠る場所。


玉砂利を踏みしめて境内の奥の坂道を
ゆっくりと降りていく。


綺麗に整備された墓地の一角
静かに姿を見せるお姉ちゃんのお墓。


揺れる指先には墓石の冷たく硬い感触が
伝わるだけで。



墓地の掃除をするわけもなく、
ただお姉ちゃんのお墓の前に腰を下ろして
ボーっと、見つめ続ける。



鞄の中から取り出した手帳に
挟まれた写真。
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