星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
車内から携帯を握りしめて、
裕真兄さんは何処かへと電話をする。
『託実と一緒に今から、
彼女の病室に向かうよ』
そう伝える相手は裕兄さん?
そう思いながら裕真兄さんを見つめると、
裕真兄さんは、携帯を俺に手渡した。
「託実……、
ようやく歩き出せそうだな。
お前を理佳ちゃんと出逢わせたことは
お父さんは後悔していない。
だけど……お前が深く傷ついたのも知ってた。
理佳ちゃんの傍で何も出来なかったのは、
辛かっただろう。
ゆっくりと託実自身と向き合っておいで。
そして、そろそろ託実自身を許してやりなさい」
電話の向こう側から聴こえた声は、
理佳の主治医をしてた親父。
「親父……」
「今、お前のマンションに居るんだろう。
理佳ちゃんの妹が。
さっき病院にお父さん宛に、
彼女の両親から連絡があったよ。
後でゆっくりと聞かせて貰う。
お母さんと一緒にな」
そう言うと親父は電話を切る。
リムジンは病院の関係者入口の方へと静かに止まり、
運転席が後部座席のドアをゆっくり開いた。
裕真兄さんがIDカードを翳してドアを開けて、
守衛さんに会釈すると、
慌てて守衛さんは俺と兄さんに深々とお辞儀を返す。
「御苦労様」
労いの言葉をかけて、
俺を誘導するように、通う慣れた階へと歩いていく。
詰め所で、兄さんの姿を見たナースが
慌てて駆け寄ると、兄さんは鞄を預けた。
「左近さん、505に居るよ」
あの日からずっと
目を背け続けた時間。
縋り続けた時間。
長い間、苦しみ続けた時間のはずなのに
何故か……心は穏やかで落ち着いていた。
夜の病室。
辿り着いてすぐに、
病室の灯りをつける。
目の前に広がるのは
理佳が眠り続けたベッド。
この病室の時間は、
あの日のまま……今も凍り付いて。
あの日まで、
確かにら理佳はこの場所で眠ってた。