星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
そんな俺の気持ちを吐き出す場所さえないままに、
理佳は自分を貫いて勝手に逝っちまった。
どんなに穏やかそうな笑顔を見せて
旅立っても、俺は認めない。
そんな死に方。
もっともっと……諦めずに
俺の隣で笑って欲しかったんだ。
その命の灯が、本当に消える瞬間まで。
だけどどの俺の願いも二度と叶えられることはなくて、
俺が唯一出来たのは、
息を引き取ったばかりの、まだ暖かい理佳の頬に恐る恐る手を伸ばして触れること。
息を引き取ったと理解しようとしても、
指先から伝わる、その温もりが
理佳の死を拒絶させる。
アイツは……俺にとって、
光そのものだったんだ……。
そんな光が失われた……
あの日、俺は……光を忘れた……。
百花と出逢うまで……。
「裕真兄さん……。
俺、こんなにも絡まりすぎてた」
「そうだね。
託実、ゆっくりと私の肩に手をまわして
立ち上がろうか」
促されるままに、裕真兄さんに体を預けるように
起き上がると、そのままベッドへと再び座らされた。
「深呼吸をまた始めようか。
吸って、吐いて……。
ゆっくりと繰り返しながら、目を閉じて力を抜いてごらん。
何が見えるかな?」
何が見える……?
あれ、女の子?
何時もは輪郭すらぼやけてわからない少女。
だけどその女の子の顔が、
百花の顔で明確になっていく。
「百花……?」
*
灯りの消えた一階の病院エントランス。
アイツがずっと演奏し続けた、
グランドピアノをボーっと見つめてた。
ボーっとただピアノを見つめてた俺の前を、
百花がゆっくりと通り過ぎる。
百花は、理佳が何度も演奏していたピアノの蓋を開いて
鍵盤の上を何度も、その指先で辿り続ける。
夜だから……ピアノの音を発することない。
鍵盤を辿りながら『お姉ちゃん』と声にならない声を出す百花。
『なぁ、お前がモモ?
理佳が凄くお前に逢いたがってた。
なんで逢ってやらなかったんだよ』
責めるようなキツイ一言。
百花の気持ちを汲み取る余裕なんて、
俺にはなくて、勢いに任せて八つ当たりした
最低の時間。
百花を責めたいわけじゃない。
傷つけたいわけじゃない。
むしろ……責められて、
ボロボロに傷つきたいと願った俺自身。