星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


「お帰り。

 託実……。
 向き合ってきたみたいだね。

 理佳さんは最初から
 託実を縛ってなかった。

 託実をあの場所から遠ざけて
 縛り付けていたのは託実自身だったんだよ。

 あの時……、理佳さんの手を握れなかった
 託実自身。

 託実の思いと反した行動だとしても
 その時に握れなかった託実自身の罪悪感が姿を変えて
 託実自身を今日まで縛り続けてた。

 そして……それは、百花さんも追い詰める形になった」


裕真兄さんの言葉が
今なら、すーっと流れ込んでくる。


……そう……全てを受け入れることが出来たから。



「理佳には後日、謝ってくるよ。
 
 それより……今は百花が気になる。
 さっき思いだした。

 俺……あの日、百花に逢ってたんだ。

 理佳を思ってる剥き出しのアイツの感情に触れて、
 俺、百花に理佳を伝えてやりたくて、
 理佳の葬式に一曲演奏したいって思ったんだ。

 『星空と君の手』

 作る時間なんて殆どないのに、
 俺の中にスーッと入り込んできて形になった俺の曲。
 
 今思えば百花に作った、
 俺自身の最初のプレゼントだったんだな。


 裕真兄さん、今ならちゃんと掴めるよ。

 百花をしっかりと掴んで守ってやれる」 
 



そう言うとベッドで軽く伸びをして、
ゆっくりと腹筋で体を起こした。




病室には朝の光が差し込んでくるものの、
そとは微妙な曇り空だった。




ふいに、裕真兄さんのPHSが着信を告げる。



「託実、少し電話に出るよ」


一言、理を入れて電話に出る裕真兄さんの表情が、
途端に厳しい表情へと変わっていく。


『裕真っ、どうしよう。

 朝ご飯の買い物に行って帰ってきたら、
 百花ちゃん、車に跳ねられたみたい。

 今周囲の人がいろいろ動いてくれたみたいで、
 救急車きたところ。

 裕真のところに頼んでいい?

 託実君の方は、終わってる?』




微かに漏れる声は、凛華さんみたいで
スピーカーから漏れる音は、
残酷な現実を突きつける。




百花が交通事故?





途端に体の力が一気に抜けていく。 
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