星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
天へ還っていく満たされない痛みの想い。
そんな想いたちを透明な星空へと一気に色を塗り染めて、
一つ一つの優しい輝きを放ち始める。
私とお姉ちゃんを包む玉はゆっくりと上昇し、
その壁面には……今、起こってる現実らしき世界の
情報が映し出される。
手術室?
無機質なその部屋で、
血の気を失って横たわる私を助けようと
必死に頑張ってくれる医師たち……。
もう……、どうなってもいいって
そう望んだ私を今も必死に助けようとしてくれてる。
そのまま壁面に映し出される世界は
オペ室の外の景色へと移り変わる。
ソファーに座ったまま
ただ……オペ室のランプが
消えるのを祈るように待ち続ける唯香。
そんな唯香を隣できっちりと
支える……雪貴くん……。
……来てくれたんだ……。
唯香……。
もう忘れられたと思った。
連絡が着かなくなったあの時から、
唯香は私なんてどうでもよくなったんだって。
必要なくなったんだって思ってた。
次から次へと映し出す
壁面の景色にあの人の姿はない。
……やっぱり……。
「……託実……。
託実はお姉ちゃんが好きなんだね」
小さく呟いた瞬間壁面の景色に
満天の星空が映し出される。
えっ?
『モモ。
ほらっ、あそこ』
お姉ちゃんが隣で指差しをしながら
にっこりと微笑みかける。
見つめたその先には、病院の屋上。
満天の星空の下で
祈るように手を伸ばし続ける託実の姿。
そんな託実を見守るように
星空を見つめ続ける唯香の主治医だった人。
『モモ……。
託実は今、凄く不安なのかもしれない。
強そうに見えて、託実はずっとずっと弱虫なのよ。
昔からプレッシャーとか、重圧とかには弱すぎるの。
お姉ちゃんが託実と出逢ったときは、
託実が中学三年生。
陸上部の全国大会の前に練習をし過ぎて、膝を怪我してしまったの』