星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
「託実も座れば。
先に俺と凛華はディナーを頂いたけど
まだなら託実のも運ばせるよ」
裕真兄さんに促されるままに俺もテーブルについて言葉に甘えた。
暫くしてテーブルに順番に運び込まれるコース。
車の運転があるため、アルコールを控えながら
そのまま食事を勧めて一息つくと、裕真兄さんはゆっくりと向き直った。
「託実、託実は百花さんとどうするの?
今日は兄的な立場として……後は伊舎堂のトップとして
真面目に話したいと思ってる。
俺自身は隣にいる彼女、久良木凛華を婚約者として一族には紹介している。
ただ彼女の出生の立場が、問題になっていてね。
彼女は九紋連合の久良木会の御令嬢であり組長って言う立場があってね」
そう言って衝撃の事実を告げた裕真兄さんの言葉に、
俺はマジマジと凛華さんを見つめる。
九文連合は極道の勢力の一つで、
久良木って言う組も噂程度には知ってる。
そこの現役組長が、モデルやってるってどうなってんだ?
しかも裕真兄さん、何処で出逢ってんだよ。
そんな背景を考えたら、伊舎堂の財閥トップと極道の組長の恋愛って
俺よりハードル高いぞ。
「彼女の家の問題もあって、世間の反応もあるだろうからね。
俺と凛華はお互い了承したうえで、公表する機会を探っているって言うのが現状。
父や母の承諾は得ているし、彼女の一族からも凛華のことは任されてる。
ただ私情だけで闇雲に突っ走っても、株に影響してしまうと立ち行かなくなるからね」
そう言うと……裕真兄さんと俺の背負ってるものの大きさの違いが浮き彫りになる。
恋愛一つにとっても、社運ってものが一気に伸し掛かる肩。
好きと言う想いだけでは、好きに動けない現実問題。
だけど俺は……Ansyalとファン。
この二つの存在は大きいけれど、それでも動こうと思えば今すぐにでも動き出せる。
マスコミに隠し撮りとかをされて、あることないこと書きたてられる前に
俺は俺自身で、百花を守る準備をしないといけない。
それだけは確かな現実。
「裕真兄さんと凛華さんの覚悟受け取ったよ。
俺は二人の未来を反対しないし応援する。
ま、お互いの立場的には厳しいだろうけどな。
んで肝心な俺。
俺も自分の中では、大まかな未来絵図って言うかあるにはあるんだ。
裕真兄さん、アイツの退院って早いと何時頃?」
「順調にいけば、来月の前半くらいには許可したいところだけどね。
予定は未定」
「それだけわかれば充分。
後、もう一つ。今住んでるマンションの上にあるファミリー向けの部屋。
何処か売ってくんない?
俺の物件として。
支払いはすぐにでも対応する。
アイツの退院までにマンションのリフォームを終わらせておきたい」
そう、アイツが帰れる俺と百花の家を手に入れる。
百花を養えるように、守ってやれるように
精一杯、仕事も頑張る。
俺が一家の大黒柱になる。
その決意は変わらない。