星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


「大丈夫。

 プロボーズした時からちゃんと考えてたんだ。
 けど百花の家も、俺の家もその辺りは厳しそうだろ。
 手順はしっかりと踏んでいく。
 それは俺自身ケジメかな。

 明日は来れないかも知れないから」


百花をギュっと抱きしめて、俺は病室を後にした。

向かうのは実家。

実家でノーパソを開いて、仕事の続きをした後
3時間ほど仮眠をとってその日を迎えた。


スーツに着替えて、リビングに顔を出したら
すでに親父やおふくろも準備を整え始めていた。


「あらっ、託実おはよう」

「おはよう。母さん」

「親父、今日は悪いな。
 仕事休んでもらって」

「良く知ってるご家族だけど、
 なんか緊張するな……。

 昔、父さんたちが結婚の報告に行ったときみたいに
 緊張してるよ」

「おいおいっ。
 親父らが俺より緊張してどうすんだよ」


そう言いながら三人で準備を終えると、
「お車の支度が整いました」
っと俺たちの方に近づいて運転手が静かにお辞儀した。


準備された車に乗り込んで、喜多川家の門を潜る。

指定された場所に車を止めると、
百花の祖父、満永の御両親が揃って俺たちを出迎えた。


「さぁ、どうぞ。
 お待ちしておりました」


促されるままに通された部屋。


順番に着席すると、暫くして百花のお母さんが
お茶を運んで来て、テーブルへと置くとゆっくりと腰をおろした。


正座をして背筋を伸ばし、俺は喜多川会長と、満永夫妻と対峙する。



「本日は貴重な時間を私の為に作ってくださいまして先にお礼申し上げます。
 先日、喜多川会長並びに満永夫妻のご息女であられる百花さんに、
 正式にプロポーズをさせて頂きました、亀城託実です。

 百花さんの御承諾を頂けましたご報告と共に、百花さんのご家族であられる
 皆様方にも正式にお許し頂ければと想いお邪魔させて頂きました。

 喜多川会長はご存知ですが、百花さんと私が出逢ったのは昨年の梅雨の頃。
 親友、隆雪のお見舞いの品にと喜多川会長の画廊にお邪魔させて頂いた時が最初のきっかけでした。

 その時は、百花さんが理佳さんの妹だとは知らないまま、今日まで時間を歩んでまいりました。
 理佳さんに似ているから、惹かれたのかと思ったときもありましたが、
 百花さんだからこそ、彼女に惹かれたのだと思い知らされました。

 まだまだ至らぬとは思いますが、精一杯守っていきたいと思います。
 どうぞ、百花さんとの結婚をお許し頂けませんでしょうか?」


最後の声と共に、深々とお辞儀をする。
俺の隣、親父やおふくろもお辞儀をしている気配を感じる。



「託実さん亀城ご夫妻も、どうぞ頭をあげてください」


静かに喜多川会長が声をかける。

促されるままに、ゆっくりと頭をあげると
喜多川会長は、満永夫妻の方へと視線を向けた。


「ご丁寧に有難うございます。
 託実さんには、理佳だけでなく百花までお世話になることになりましたね。

 百花はあの通り、優しい子ですが小さい時から理佳の手前、
 我慢ばかりさせてしまいました。

 あの子が託実さんを選んだのであれば、私も妻も何も言うことはありません。
 祖父も、百花と託実さんのことをずっと一番近くで見守っていたのだと思います。

 どうぞ、あの子を幸せにしてやってください」


百花の父親の言葉で、正式に結婚の承諾が得られ
俺は緊張のあまりゆっくりと呼吸を吐き出す。


「あらあらっ、託実。
しっかりしなさい。

 本当に昔からうちの息子は、プレッシャーに弱くて。

 理佳ちゃんとの一件以来、 
 必死に頑張ってる託実の姿を見守ってはきましたけど、
 何処か危なっかしくて、ハラハラしておりました。

 だけどAnsyalのバンドがメジャーデビューしてから、
 少し息子の顔が楽しそうに感じられるようになりましたの」


母さんは俺をフォローしようと
俺の話題を話しているのかもしれないけど、
ネタにされてる俺自身はたまったもんじゃない。

勝手に俺の昔話始めるんじゃねぇって。


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