星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
1.憧れの君 -百花-
真っ暗な闇の中をずっと一人で歩きながら、
自分自身の体を両手でギュッと抱きしめる。
足元を辿るように恐る恐る一歩ずつ踏み出しながら
私はその日も、歩き続けてた。
自分の足を止めて立ち尽くしそうになった時、
私の目の前には、何時も髪が背中くらいまである女の子が
背から純白の羽根を大きく広げて、私を誘導するように姿を見せる。
そして……その日も、暗闇の時間はそうやって幕を閉じる。
聴覚を刺激するのは、携帯にセットしているAnsyalのサウンドと、
コンポの目覚ましコール。
そんな起床時間を告げるアイテムたちに誘われるように、
ゆっくりと居眠りしてしまったソファーから体を起こす。
ソファーから視線を向けると、
描きかけのデッサンがガラステーブルの上に散乱して、
その先には、イーゼルには真っ白なキャンパス。
私、喜多川百花【きたがわももか】。
神前悧羅【こうさきりら】学院の大学部で
芸術を専攻してこの春、卒業したばかりの私は四月から、
以前から手伝っていた祖父の画廊のスタッフとして
社会人一年目をスタートさせている。
私の祖父は、人間国宝でもある
喜多川昇山【きたがわ しょうざん】。
国の宝って言う大層なポジションを抱える
お祖父ちゃんだけど、私にとっては……大好きなお祖父ちゃん。
そして……今の戸籍上のお養父さん。
小さな時からずっと私を守り続けてくれた、
お祖父ちゃんみたいな魂のこもった絵を描きたくて、
私はこの道を歩き出すことを決めた。
絵で食べていくなんて、生半可な気持ちじゃ選択できない。
だけど……絵を描くことを諦めたくないから、少しでも近くに居て
勉強したい。
だから大学卒業後、私は祖父の画廊にそのまま就職した。
散らばったまとまらないデッサンの紙を手元に手繰り寄せて、
壁の時計に視線を向ける。
時間は5時半。
ソファーで目が疲れて眠ってしまったのが、
3時半頃だったから、2時間くらいはウトウトしちゃったわけだけど
流石に、これ以上は眠れない。
あのキャンパスに描くイメージだけでも固めちゃわないと。
そう思いながら、リモコンに手を伸ばしてオーディオを再生する。
スピーカーから聞こえてくる音は、
私のお気に入りのバンド、Ansyal【あんしゃる】のサウンド。