星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
「百花もじゃよ。
理佳が亡くなった後も、百花は喜多川の姓のまま儂の子供として
この場に留まりつづけた。
満永の家に戻ることなくな。
祖父としてな、孫が不憫で仕方なかった。
気休めになればと教えた絵に、百花ははまって
百花自身の心を守るように、絵に没頭し始めた。
そんな百花が大学に入った頃じゃったかな。
凄く明るく笑うようになった。
その時、笑顔を見せてくれた存在を知りたくて
孫の部屋に勝手に入ったんじゃ。
そこには、託実くん。
お前さんの大きなポスターが飾ってあったよ」
そう言って、喜多川会長が俺に笑いかけた。
「託実、今後の話し合いをさせて頂いたらどうだ?」
親父に促されて、俺は鞄の中からファイルに挟んだ書類を取り出して、
百花の家族に見えるようにテーブルへと広げた。
「まだ百花さんには伝えられていませんが、
現在、新居となるマンションをリノベーション中です」
「順調に回復しましたら、百花さんは今月の中旬には
退院できるようになると思われます。
退院後も、通院は必要ですが今回、託実が選んだ新居となるマンションは
病院から近く退院後のケアーもやりやすいかと存じます」
「新居となるマンションは、ご覧いただいた資料の通り
セキュリティーもしっかりと完備しており、
地下の駐車場を通して、各財閥の管理するマンションへと行き来が可能となっています。
私が新居として購入した部屋は、伊舎堂の管理下にある物件になりますが
こちらのお隣のマンションは、Ansyalが所属する事務所の建物となり
何人かのメンバーはこのマンション内で生活しています。
百花さんの親友である、唯香さんも生活していますので
百花さんにとっても心強いかと思います」
「託実くん……緋崎君も近くにいると言うんだね」
「はいっ」
「百花がそれを望むのであれば、
儂は何も言うまい。
あの子が出ていってしまうのは少し寂しいがな」
喜多川会長はそう語尾を続けて、
湯呑へと手を伸ばした。
「本当に突然のことですいません。
精一杯、百花さんを幸せにしたいと思っています。
まだまだ若輩者ですが、ご指導宜しくお願いします」
その後も、今後の結納の日取りや
新生活、結婚式に向けての話題に軽く触れて、
俺たちはお昼に差し掛かった頃に、
喜多川邸を後にした。
その昼、久しぶりに家族三人で外食。
報告から始まるケジメ。
俺自身の一大行事は、
こうして緊張の中、無事に終えることが出来た。
後は百花との新生活に向けて
準備を確実に進めていく。