星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
7.雪貴の留学-託実-
六月中旬。
百花の退院の日、無事に結納を終えた俺と百花は
新居で新生活をはじめながら慌ただしいながらも
心安らげる日々を過ごしていた。
一緒に生活しはじめて最初の一週間は、
亀城家の慣わしに従って親族がアポイントを取ったうえで、
祝いを持って次々と新居を訪ねてくる。
その度にきっちりと正装して親族を迎え入れる。
俺の隣、緊張した面持ちで親族を迎え入れる百花。
そんな百花をリードするように、俺は親父と母さんに叩き込まれた作法に基づいて
もてなす。
「この度託実様、百花様には御良縁まことにおめでとうございます。
心よりお慶び申し上げます。
お祝いにほんの気持ちばかりではございますが、
どうぞお納めくださいませ」
亀城の親族より祝儀盆が時計回りに差し出される。
祝儀盆の上には、寿の掛袱紗。
それをそのまま受け取って、別室に移動して開封を済ませると
中を改めた後に、預かったばかりの祝儀盆に『お移り(おうつり)』と呼ばれる僅かなお礼をのせて
袱紗を裏返しにして、ゆっくりとお持て成し中の部屋へと戻る。
「只今は充分なお気持ちをわざわざご持参頂き重ねてお礼申し上げます。
なお、貴重なお道具で有難うございました」
縁が移るようにと言う願いが込められた一連の儀式。
俺の隣、百花は戸惑いながらもこの風習に慣れようと
努力してくれた。
御祝儀を受け取る儀式を一通りした後は、
和菓子と昆布茶でお持て成し。
そんな御祝儀のお持て成しに一区切りついた頃、
百花と初めて体を重ねた。
俺の腕の中で艶やかな声を出す
百花をもっともっと守ってやりたい、
慈しんでいきたい、幸せにしたいと思えた。
七月に入って暫く、羚と共にプロデュースに携わっている
事務所の後輩のLIVEに同行するため、
何日か家を留守にすることになった。
その時も思った通り、百花の親友である唯香ちゃんが
訪ねて来ては同じ時間を過ごしてくれていたようだった。
百花から届くメールの写真に、
愛しさだけが膨らんでいく。