星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


「唯香、問題なのは唯香自身の心だよ。
 誰のためとか、そんなんじゃなくてさ」

「あのね……雪貴の留学は私は行かせてあげたい。
 去年、雪貴が受賞したコンクール本当に難しいんだ。

 私も同じように賞をとれたから、その時の苦労は沢山知ってる。
 あの賞には、留学って言う特典がついているのは昔からだった。

 私は留学の権利を放棄して、その間の生活費の補助にあてたの。
 
 お父さんもお母さんも亡くなった後だし、
 庇護下にあった施設も大学生になったら出ないといけないから。 

 神前悧羅は、学費が免除になる制度もあって私には凄く重要な拠点だったし
 寮生活があったから、両親不在でもそんなに大変だったって思わなかった。

 だけど一人暮らしが始まってからは別だったから。
 免除になるのは学費だけ。
 学費を負担して貰えるのも有りがたかったけど、生活費はやっぱりかかっちゃったから。
 
 ちゃんと学校を卒業したかったから、その一年間の留学を辞退して留学用に用意されてた費用を
 卒業するための生活費用として変えたの。

 だから……雪貴には、留学したかったなぁーって言う後悔はしてほしくないから。
 そう言う意味では、留学を反対するって言う選択肢は私には最初からないの」


唯香自身が後悔してるから、雪貴君には後悔させたくない。
そうは決めていても心がついていかない。

唯香の悩みはそう言うものだった。


その後は、唯香の気の済むままカフェテラスを離れて音楽準備室へと向かう。

唯香のテリトリーとなってるその部屋で、
唯香が演奏していたのは、確か……雪貴君がコンクールで演奏していた曲。


一気に集中してその大曲を演奏し終わった後、
拍手を送りながら、唯香をギュッと抱きしめた。



「大丈夫。
 雪貴君が留学してる間は、私が居るよ。

 託実もAnsyalのメンバーも居るだろうし、
 多分、隆雪さんだって唯香を見守って支えてくれる。

 一人じゃないから、見送ってあげよう」



私が手伝えるのは、すでに決意を固めている唯香の背中を押してあげることだけ。

雪貴くんが居なくて不安な一年は、
今度こそ、私がちゃんと支える。

だけど……今の私は、私自身も一人じゃない。

今の私には素敵な人が沢山居て、託実とお姉ちゃんが出逢わせてくれた頼もしい人たちがいるから
皆で唯香を支えていけたらって思う。



その後、懐かしいチャイム代わりのお箏の調べが校舎に鳴り響いて、
私は学院を後にした。


学校が終わった後、再び我が家を訪ねてきた唯香は、
本当の意味で覚悟を決めたように、晴れやかな顔をしてた。

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